赤いマルボロの匂い2

赤いマルボロの匂い2

熱心に人を想えるRと違って、しかし分別のある大人などでもなく、察しのとおり、ぼくは 薄情で冷めているだけだ。
夜気の清々しさと、Tさんの珍らかさと 一緒に居られる嬉しさが、ぼくを快く、饒舌に 奔放に 無礼にもさせた。
いつかぼくから離れて、また欄干に前身を預けて 少し前のめりで、気持ちよさそうに煙草をふかしている人の後ろで、前々からの懸念を ここで質してみようかと、ちらちらと気配とタイミングを伺いながら、
「Tさんは、嫌じゃないの? 仕事をしている同じ家で、ぼくらが、為ていること。。 気が散るし、ムカつくでしょう?」
後半は、睦みあう二人に対して ぼくが微かに抱いてしまう心苦しさであり、気持ち悪い と言おうとして、やわらかく言い換えた。
「別に?」 ぼくの日々に積もった 慎ましさからの憂慮をよそに、何てことない風に 鷹揚に、「何を今更」、「可愛いもんだよ。」と、夜風に髪を靡かせていた。
傍からみれば、Rくんは妻を竊ねる間男的だけれど、そんな彼をも領じている人に、愚問だよなと、かれにとっては、飼い猫か狗が盛って交尾んでいる程度のことなのかもと、夜更けの愉しさに、また 朗らかなTさんの様に肖って、どうでもよくなってしまう。
「お前はどうなんだ?」
「? ……どうって、何が?」
「俺が 他の、、(と言い澱んだところは、「Rと、」と言おうとして 次いで「男や、、」と言いかけ濁したみたい) 奴と セックスすることについて、お前はどう思っている?」 それでも はっきりと単刀直入に問い直され、当人の口から明確に著されたその生々しさにも拘らず、即答する。「何とも思わないよ。」
「それはないだろう。」 妬きもちか軽蔑の一つくらいしてくれよと言わんばかりに、ちょっと寂しそうな困り顔のTさんを前に、ぼくは 正直な気持ちを説こうと、心を浚い、ことばを選んで、とぎれとぎれに、「ほんとに、考えたことがないんだ。だって、Tさんは、ぼくと居るときは、ぼくだけと居てくれるから。それで満足過ぎるほど満足なんだ。」
本心だけど、出来た大人の前で 少し意地を張って 澄ましてしまう。
それに、Tさんみたいな偉大な人を、独り占めしようなんて発想が 端から起こらない。その人生の一端にでも相伴に与らせて頂くだけで充分にすぎた幸せというものだ。
「……病気は怖いケドね。」
「安心しろ。お前に性病はうつさない。」
「別にいいよ。怖いけど、知っててぼくも為ているんだから。Tさんからうつされる病気なら本望だよ。」